DIARY:夕焼け少年漂流記

 

2013.02.22

第7号 銀座きいちのラーメン

 きいちの経営者の千葉さんのこと。

 もう30年近くも昔のこと。エレベータのない雑居ビルの5階にある深夜の飲み屋があった。飲み屋は、数席のカウンターと10人程度が座れるくすんだ色のソファ席があり、いつも常連で代わる代わる歌を歌っていた。
 当時は、今のカラオケの始まりの時代で、それぞれの客が持ち歌を歌っては、深夜まで酒を酌み交わしていた。サントリーホワイトや、所謂だるまと言われたサントリーオールドが、主流の時代で、その中にあって私と千葉さんはなぜかケンタッキーのバーボンを飲んでいた。
 カウンターに肘をついて、うずくまるように物静かな黒い陰のような存在の千葉さんは、同じようにカウンターの隅で、腰を丸めて飲んでいる私とどこか意識しあったライバルであったかもしれない。

 ちばき屋のラーメンをいただくと確かに日本で一番と味わえるほどの絶品であるが、このラーメンの存在は、私の若い日の悩みや焦りや希望をいつも澄んだスープの中に溶かし込んでいるように思える。




2013.02.13

第6号 光る増上寺

増上寺が光っている。
あの人は夜空を宇宙に向かって歩いていく。

瞼をシャッターのように閉じると、
粉雪が海のように揺れる雪原に、
落ちては溶け、
雪底を凍らせていく。

今度は、瞼を二回開閉すると、
狂乱する群衆の声をかき消すように、
甲高いテノールのオペラ歌手が
乾杯の歌を歌っている。

次に瞼を開閉してみたが、
シャッターの音も、
上瞼と下瞼の開閉音が聞こえない。

笹の葉のような瞼を透かして、今宵は増上寺がライトアップされていた。
天に向かって伸びる灯明がまるで螺旋階段のように回転しながら宙に続いている。

流れきれない星が一つ。
僕の瞼に突き刺さった。




2013.02.08

第5号 MKタクシー様

 MKタクシーの広告を創るときに、いつも気にするのが、この会社の爆発的で、奇想天外な、そして何より豪腕怪力で繊細な青木社長の評価である。
 外国での事件やトラブルに巻き込まれる日本人が増えていく中で、近い将来、間違いなく起きるのがタクシーを使った凶悪な事件であるように思う。そんな奇妙な予感の中で、エムケイタクシーが上海、韓国、ロスで運行業務を始めるのは、頼もしい。

 この広告は、やがて外国での犯罪をモチーフにした社会広告に発展させようと思っている。