DIARY:夕焼け少年漂流記

 

2013.02.13

第6号 光る増上寺

増上寺が光っている。
あの人は夜空を宇宙に向かって歩いていく。

瞼をシャッターのように閉じると、
粉雪が海のように揺れる雪原に、
落ちては溶け、
雪底を凍らせていく。

今度は、瞼を二回開閉すると、
狂乱する群衆の声をかき消すように、
甲高いテノールのオペラ歌手が
乾杯の歌を歌っている。

次に瞼を開閉してみたが、
シャッターの音も、
上瞼と下瞼の開閉音が聞こえない。

笹の葉のような瞼を透かして、今宵は増上寺がライトアップされていた。
天に向かって伸びる灯明がまるで螺旋階段のように回転しながら宙に続いている。

流れきれない星が一つ。
僕の瞼に突き刺さった。