COLUMN:日刊ゲンダイ「数字のホンネ」

 

2007.01.30

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第3号 2020年には20万店に! 『中国コンビニ10,500店』

 中国で「便利店」が急増中・・・・。コンビニのことである。1996年に私がお手伝いしたローソンの上海1号店オープン以来、成長を続ける「便利店」マーケット。今では中国全土で1万500店(2005年末)に達した(ちなみに日本は約4万店)。
ローソンの新浪剛史社長は、「2020年には20万店舗に達し、中国は世界最大のコンビニ王国になる」と予測している。

 面白いのは、客の利用意識が日中で大きく異なっていることだ。「サーチナ総合研究所」と「マイボイスコム」が行った調査によると、利用する理由でもっとも多かったのは「近くにある」(約8割)で、これは日中ともに一緒。だが、中国では「店内が清潔・衛生的」27%、「商品の安全性や品質が良い」23%といった回答が目に付く。
日本ではわずか数%しかない。この差は、中国の店舗事情や、商品に対する安全性や信頼性の低さを如実に物語っている。

 さらに購入品目でも大きな差がある。飲み物やお菓子はともに人気だが、中国では生活用品が41%と、日本の3%を圧倒している。
歯ブラシやティッシュ、トイレットペーパーなどを、会社帰り(夜6時から9時の利用が48%)に買っている光景が目に浮んでくる。

 上海・浦東地区のオフィスビルに入っているローソンでは、ランチタイムともなると外資系企業に勤務するOLらが、弁当を手にレジ前に列をなしている。揚げパンなど中国人好みの商品をそろえて独自性を打ち出す地元資本のコンビニも登場。上海や北京など大都市では、すっかりライフスタイルの一部として溶け込んできた。今では熾烈な競争も繰り広げられている。

 とはいえ、12億の人口を抱える中国は広い。外国小売業の進出に関する規則の緩和など、コンビニが増える環境も整ってきた。沿海部だけでなく、中国全土で「便利店」の看板が見られるようになる日は遠くない。


2007年1月30日号


2007.01.23

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第2号 邦画躍進の支え役 『映画公開本数800本』

 約800本。2006年の映画の公開本数(見通し)だ。

 薄型テレビの大型化が進み、自宅でDVDで映画を楽しむ人が増えている。このブームは一見、映画産業にとってマイナスにみえるが、実は公開本数は03年の622本から、04年=649本、05年=731本と毎年増加しているのだ。
こうした中、06年は邦画の興行収入が21年ぶりに洋画を上回ることが確実視されている。

 公開本数が増加した理由のひとつに、女性監督の台頭が挙げられよう。
「ゆれる」の西川美和、「かもめ食堂」荻上直子など才能あふれる若手監督のスマッシュヒットも記憶に新しい。

 もうひとつの理由は、ファンドをはじめとした資金面での仕組みが出来始めたことである。それぞれのファンドは、○○製作委員会という名前で映画の予算を確保。膨大な予算が必要な映画という産業の下支えができているのだ。

 そして、このファンドが資金回収の目玉としてとらえているのが、セルビデオやDVDの販売による第2次販売収入である。コンビニや、TSUTAYAなど販売供給先が多様化してきたことで、第2次販売収入が確保されつつある。

 以前であれば、公開後1年から2年で民間のテレビ会社に放映権を売ってオンエアされるのが普通であったが、最近は公開されてから2、3ヶ月でDVD化され、店頭に並べられる商品も少なくない。話題性のあるうちに商品化されることで、客が飛びつくというわけだ。
このトレンドでいうと、公開日にDVDで販売する、あるいは公開よりも先にDVDが販売される、といった日も遠くないように思われる。

 ちなみに国内の映画館の数は約2900(05年)。入場者数は約1億6000万人(同)で、前年の94%にとどまった。邦画の健闘で06年はどうなるか。

 最近の傾向からハッキリしてきたのは、家庭でのDVD鑑賞が映画産業を下支えしているということ。なんとも皮肉な現象ではないか。


2007年1月23日号


2007.01.16

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第1号 親指文化の悲劇 『携帯メール1日120通』

 ハリウッドスターや人気女優らが登場し、ファッション性、機能性をアピールする携帯電話のCM、広告があふれかえっている。若者達はこぞって新機種に飛びつく。いったい、どんな使い方をしているのか。

 興味深いデータを紹介しよう。女子高生、女子大生の多くが、メール料金の格安プランを使って、5,6人の友達相手に1日120通ものメールを発信しているというのだ(着メロ配信会社調べ)。
朝、昼はもちろんのこと、授業中もあたり前。読者の皆さんが接待をしたり、残業にいそしんでいる夜の10時から12時にかけてがピークだ。
全体の8割近くが、この時間帯にコミュニケーションをとっているのだ。

 ウチは息子だから大丈夫。いやいや、そんなことはない。メールの頻度は1日10通程度と落ちるが、通話回数は女子大生と同程度だという。

 友人の杉並区立和田中学校、藤原和博校長にこの話をしたら、
「今の現象は“親指文化の悲劇”ですよ」
と指摘していた。現実社会と向き合うことをせずに親指でひたすらキーを叩き、携帯電話を通じて仲のいい友達とのみコミュニケーションを築く。
電車の中で、一心不乱にキーを叩いている姿は不気味ですらある。

 カノジョたちにとっては、なくてはならないツールなのだろうが、イジメや受験勉強の悩みの解決ツールにはならない。
逆に陰湿なメールでのイジメを深刻化させてしまいかねない。

 携帯依存から離れ、目の前の両親や社会に向き合うようになれば、イジメをはじめとする諸問題がもっと目に見えやすい形で現れてくるはずだ。
みなさんの娘や息子の親指の裏側に隠れたその文化が、実は若者のコミュニケーションを完全に社会から隠蔽する道具になっているのだ。

 番号ポータビリティー制実施で、どこが勝った、負けたなんて取るに足らない話。利便性と娯楽性を追及した携帯文化の裏側に、若者をむしばむ深刻な問題が潜んでいることを忘れてはならない。


2007年1月16日号