DIARY:夕焼け少年漂流記

 

2013.02.22

第7号 銀座きいちのラーメン

 きいちの経営者の千葉さんのこと。

 もう30年近くも昔のこと。エレベータのない雑居ビルの5階にある深夜の飲み屋があった。飲み屋は、数席のカウンターと10人程度が座れるくすんだ色のソファ席があり、いつも常連で代わる代わる歌を歌っていた。
 当時は、今のカラオケの始まりの時代で、それぞれの客が持ち歌を歌っては、深夜まで酒を酌み交わしていた。サントリーホワイトや、所謂だるまと言われたサントリーオールドが、主流の時代で、その中にあって私と千葉さんはなぜかケンタッキーのバーボンを飲んでいた。
 カウンターに肘をついて、うずくまるように物静かな黒い陰のような存在の千葉さんは、同じようにカウンターの隅で、腰を丸めて飲んでいる私とどこか意識しあったライバルであったかもしれない。

 ちばき屋のラーメンをいただくと確かに日本で一番と味わえるほどの絶品であるが、このラーメンの存在は、私の若い日の悩みや焦りや希望をいつも澄んだスープの中に溶かし込んでいるように思える。