DIARY:夕焼け少年漂流記

 

2006.10.13

第39号「広島紀行」

 広島空港から瀬戸内海へ向かう中国山脈のど真ん中を通り向ける道は、裏日本と表日本の境界線を辿る道でもある。道の両側はまるで法律で規制されたように熟した柿のような赤銅色の煉瓦の屋根、その端には大なり小なりしゃちほこがどの家にも飾られている。1時間ほど走ると車は呉市の海岸沿いの町に着いた。
 
 谷原先生は、日本各地の遠方に住む患者から贈られたらしいたくさんのお土産の菓子箱を開けながら、「最近の日本人は事実(現象)ばかりを追いかけて、その真実(根本)を見ようという気力が感じられない。日本人ほど真実というものを突き詰める心を持っている民族はいないはずだ。」
とニコヤカに話をしてくれた。

 窓から直角に見下ろす瀬戸内海は濃いクレヨンで書いたようなくっきりとした輪郭の海と小島と妙に人口的な橋が絵葉書のようだ。

 先生の指からメスのような鋭利な電流が流れ、私の内臓が俄かに蓄積された毒素を泌出し始め、その雲泥のような毒素(病原菌の塊)が、窓の向こうのベランダの下の急斜面の坂を瀬戸内海へ向けて滑り出している。幸いにたいした病は患っていないらしいが、谷原先生の指先から放射される熱波は何万ボルトもの光を発し、私の胸と背中は落下する前の無花果のように濃い茶色から黒に変わった。


 新幹線の広島駅で食べた名物のお好み焼きのソースの色もこげ茶色だった。お好み焼きは雑多な料理であるが、私流のかなり難しい食べ方のマニュアルがある。
まずは、@鉄板の上でそのまま食べないこと。
A50〜70度に熱した白色の皿に出来れば直径20センチ以内に焼き上げたお好み焼きを置いて食す。
Bマヨネーズとソースの配合をチェックするために割り箸の先で拾い舐めてみる。
C鰹節と生姜をど真ん中の3センチ四方にのせ、必ず目を閉じて小麦粉を感じる事。
D次に注意深く前歯で蛸を探す。次にキャベツに火が通っているのを確認するようにして同じように前歯で豚肉を探す。
全体的な焼け具合が具の味を引き出すことにもなるので絶対にソースの味に誤魔化されないよう。

 新幹線の広島駅のホームで、突然不意に睡魔に襲われた。谷原先生の治療の程よい効果が出始めたようだ。