DIARY:夕焼け少年漂流記

 

2002.11.08

11月8日(金)このところ急に夜の空が澄んでいる。日比谷通りの三田辺りの上空で三日月がくっきり浮かんでいる。東京の星の数も増えたようだ。

 のんびり冬の訪れを待っていたのだが、この2.3日のうちに突然冬が舞い降りてきた。僕の気持ちもなんだか無理な冬支度に慌てている。


 折からの不況もあって街を行く人々の表情も例年の冬より神経質で厳しい。商売を営んでいる人は売り上げが上がらず、心細く、寂しく感じられる年末を迎えた。社会全体がいらいらしているせいか、今朝も東京プリンスの前でタクシーとバイク便が接触事故を起こしていた。最近、バイク便の事故が増えているそうだ。タクシーと、バイク便。今のあくせくした世の中を象徴するような乗り物の同士の事故には見物人も慣れっこで少ないようだ。


 何かが足りなくて、ストレスが溜まっている。こんな不満を一蹴しようと橘君と朝まで大酒を飲んでしまった。「並木倶楽部」で彼の歌を聴くと家に帰りたくなくなる。気が付くと下したての薄いグレーのフランネルの上着のあちこちに赤いワインの染みが付いていた。彼のバラードの歌いまわしは本物の歌手より上手い。来年あたり、彼のCDでも作ってみよう。


 銀座にカラオケ専門のお店が出来たのは今から15年ほど前になると思う。それまではアフター(クラブが閉店後のホステスとの2次会のこと)というと、赤坂あたりのスナックにいき、女性の人生の事情やら、だめな客の噂、店とのやり取りなどホステスと客の領域を超えて話をしていた。


 僕のように、会社が銀座のど真ん中にあって、今日は8丁目、明日は7丁目などと毎晩のように出没する客は身内の扱いになってしまいいい残念ながらホステスとは「相談相手」になることが多い。


 深夜から朝にかけての時間がゆっくり、まったりながれ、ふと時計は3時を指している。話に疲れてくると、恥ずかしながらそこの店にセットしてあったのがカラオケ機材に目をやる。そっとマイクを握り、他の客の視線を気にしながら小さくなって唄っていた。「そっと、おやすみ」がその夜最後の曲だった。


 カラオケ・ルーム専門店が出来てからホステスとの粋な会話より、客同士がお互いに自己主張をバンバンしながら得意の歌を披露するケースが増えてきた・・・・・・と嘆くホステスの声をよく聞く。毎晩のように、客に付き合う(アフター)のは大変な商売(肉体労働)だが、売上目標を掲げ、ましてや不況で客が少なくなってきた繁華街の高級クラブではそう簡単にお誘いを断るわけにも行かない。そしてアフターの一番の苦痛がカラオケ・ルームという名の密室で、酸欠状態となり、耳の鼓膜が麻痺するような大音響で、こってり油の沁み込んだツマミを食べながら、外が白んでくるまで下手な歌を聴くことだろう。


 よく考えてみると、この状態でホステスをものに出来ると勘違いする客も見込み違いなのだが・・・・。上手く客を捌けないホステスも会話の技量を問われている気がする。