DIARY:夕焼け少年漂流記

 

2002.11.03

11月3日(日)山田洋次監督の「たそがれ静兵衛」を見てきた。日本映画しかも時代劇は何年ぶりだろう。

 物語は江戸の後期、現在の山形県で一つの人生を終えた実直な下級武士の愛とライフスタイルがテーマである。

 今の自由な時代では考えられないほどの封建的な制約の中で生きた一人の武士(真田博之)。彼を支える生真面目な女を役者として大きく成長した宮沢りえが演じる。山田監督が「寅さん以来作り上げてきた」日本人特有の美しい心の動きを静兵衛に託し、それが東北地方の風景美の中で包みこまれる。物語は子供3人を残して妻に先にいかれた、シャイな武士の貧しい生活(家族愛)と武士道(人情)がベースである。それに、男と女の恋愛感が絡み、更に価値観が大きく変わろうとしている江戸時代後期のドタバタ社会の中でこの武士がヒーローになっていく過程を描く。会話のあちこちに散りばめられた当時の男と女の心の持ち方が、見るもの全員に”純朴“と“純愛”の清さを久し振りに教えてくれた。この映画は、必見のお勧めである。


 映画といえば、今年の前半は韓国の映画会社との接触やら、アメリカものの投資の話を随分たくさん検討した。ソウルに足を運んで、空撮用の特殊カメラの売込みやら、バブル・マネーで設立して立ち行かなくなった制作プロダクションの建て直しやら、様々なマター(事実)を確認するために何度も訪韓した。キム・ユンジンさんとも語り合った。あれは、一過性の・・・ワールドカップ熱に犯された単なる思い付きの興味だったのだろうか?それとも、この数ヶ月間の間にさらに悪化した日本経済に映画のスポンサーとしての“期待”すら失われてしまったのだろうか?最近、めっきりこの手の投資話を聞かなくなってしまった。


 藩のために、子供3人を残して決闘に出かける「静兵衛」に切ない感動を憶えた自分の姿を思い出すと、最近どうも「いやいやでも決断しなければならないある種の義務」を経験することが少なくなった。逃げ場のない究極の判断、そんな追い詰められた瞬間を“リスク回避”という言葉で消化していくのが、果たしてこの年齢の男にとって、本当に幸せなのだろうか・・・・・・・何処か侘しい、寂しい気がする。


 時代劇は背景や人間の姿かたちを変えることで、異なったアングルから使い古された“本物を提案”できる魅力がある。昔からある当たり前のことが僕に“新しい反省”を促してくれる。時代劇ブームが、来年は爆発するするだろう。