COLUMN:日刊ゲンダイ「数字のホンネ」

 

2008.09.22

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第76号 文部行政の見直しが不可欠  『小中学校の不登校児12万9254人』

 1年間に30日以上欠席した生徒のことを不登校児と呼ぶらしいが、この不登校の中学生が2年連続で過去最高の人数になっている。

 2007年度の中学生の不登校児は10万5328人。全生徒に占める割合は34人に1人(文部科学省「学校基本調査」)。全体の86%の中学校で不登校児が在籍している。
また、小学生の不登校児も増えており、対前年比101人増の2万3926人で298人に1人。小中学生をあわせると12万9254人という驚くべき数字だ。読者のみなさんのお子さんは大丈夫ですか。

 さらに、統計上は不登校とならないものの保健室で過ごす「保健室登校」も相当数いるとみられ、わが国の教育界の新たな課題として浮上している。しかも、時代は少子化である。

 文科省は今回の調査を受けて、不登校児が増えた要因を各都道府県教育委員会に複数回答で尋ねたところ、93%の教委が「人間関係がうまく構築できない児童・生徒が増えている」と回答。また、「家庭の教育力の低下」(82%)、「欠席を容認するなどの保護者の意識の変化」(65%)など、家庭の要因を指摘する声も多い。

 さて、日本に国公私立の小中学校は3万3680校あり、中には生徒が数人の過疎地の小中学校から、マンション等の増設による振興開発地域の新設小中学校までさまざまであるが、主に不登校児は都市・準都市に集中している。ある養護教諭は「友達との意思疎通が苦手で、携帯メールなどに端を発した行き違いで教室に行けなくなる子供が激増した」とも言う。さらに今後の景気悪化の影響で失業者が急増し、教育費を払えなくなる親の増加や、携帯電話の普及拡大を考えると、不登校児は今後とも増え続け、社会的規模の問題になるのは間違いない。引きこもりやニートにもつながっていく。

 戦後、受験体制一本でやってきた文科省の教育行政を根底的に見直す、地域住民や社会人にも加わってもらい、不登校問題解決に向けたアイデアを真剣に考える時期に来ている。


2008年9月23日号


2008.09.09

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第75号 日本はますます「へそくり国家」になる  『たんす預金30兆円』

 今や懐かしい響きがする言葉に「へそくり」と「たんす預金」がある。

 日銀は、使われずに家庭に現金のまましまわれている1万円札などを想定しているようであるが、なんと2007年度の発行紙幣残高約75兆円のうち、使われないでしまわれている銀行券(お札)が4割に上ったと推定している。つまり眠っている現金、「たんす預金」が30兆円規模に上っているということである。歴史的に低金利が続いていることや、サブプライムローン問題による銀行をはじめとした金融市場の混乱で、膨大なお金が行き場を失っているといってもいいだろう。

 ちなみに、世の中に出回る1000円札と1万円札の枚数は、約15年前に1000円札25億枚、1万円札30億枚だったそうだが、その後、1万円札だけが右肩上がりに増加、今年6月末までは1000円札35億5000万枚に対し、1万円札は倍の70億枚になった。日銀では、1万円札を用いた決済だけが急増したとは考えづらく、増えた分のすべてが貯蓄目的で家の中のたんすの中にあるのではないか、つまり「たんす預金」の可能性が高いとみている。

10年前の金融システム危機で「たんす預金」は次第に増加し、さらにペイオフ(破綻金融機関の払戻保証額)が1000万円と決められてから、「たんす預金」は増加の傾向をたどっている。一方で、120兆円がモノやサービスの売買に使われず、銀行や信用金庫などの普通預金口座に置かれたままであるとの試算もあるようだ。

 いずれにしても、あてになるのが財布の中とたんすの中という、日本人の消費気質の裏側には、スピードの遅いあいまいな経済体制への反発や防衛本能が大きく機能していると思わざるを得ない。

 さらに加えて、サラリーマンの給与が銀行振り込みに変わったのは1970年代の後半。カードや生命保険、住宅ローンなどの銀行引き落としから残った現金は、今後ともだんだんたんす預金化するともいわれている。
社会的に資産としてあてにならない不動産、加えて社会保険庁の不誠実な対応など「現金国家日本」は、ますます「へそくり国家日本」となっていくのである。


2008年9月9日号


2008.09.01

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第74号 高齢化社会対応の切り札となるか  『インドネシアから介護・看護職候補第1陣205人』

 インドネシアとの経済連携協定(EPA)に基づいて介護福祉士、看護師の候補者205人が来日した。受け入れ側の老人ホームや病院など環境整備の急務が叫ばれる中での、慌ただしい来日である。

 これは、よく考えると黒船来航と同様に歴史的な転換点の開幕である。少子高齢化に伴い労働力不足は既に始まっている。
2015年には日本の総人口の30%以上が60歳以降を迎えるという切羽詰まった状態で、医療・福祉分野の人材不足は火を見るより明らかである。

 日本国内の介護労働者は、介護保険制度が導入された2000年の約55万人から、06年には117万人と倍増している。
それでも厚生労働省は、14年には140万〜160万人の介護労働者が必要とみている。一方で、介護現場での離職率は21.6%。全産業平均を5ポイントも上回り、人手不足は慢性化し始めている。

 インドネシアとしても、人口が全世界第4位の約2憶3000万人で、当然ながら失業問題が国家的問題となり、外貨(円)獲得の狙いからもEPAについては積極的である。

 今回の受け入れ態勢は、日本人職員と同等の給料を保証する点と、介護職で4年、看護職で3年以内に日本の国家試験に合格すれば就労続行が可能といった点が特徴である。

 しかしながら、いくつか課題も残している。ひとつはランゲージバリアー(言語の壁)。来日した大半の候補者は、これから半年間日本語を学ぶ。続いてカルチャーギャップ(文化の壁)。インドネシアの大半がイスラム教徒であって、毎日の礼拝が欠かせないほか豚肉が禁止、さらにジルバブといわれるスカーフを首に巻いた女性も多い。

 現地の約10倍の給料が魅力的で、なおかつ高度な医療技術が学べ、そして食料事情も治安事情も良い日本での仕事は、彼らにとって天国の職場のようにもみえる。

 しかし、介護される日本国民にとっては、国家試験の質を下げないようにし、医療現場、福祉現場でのトラブルは絶対に避けなければならない。
なぜならば我が国にとって今回のEPAは、高齢化社会対応の最大の切り札になる可能性があるからだ。


2008年9月2日号