DIARY:夕焼け少年漂流記

 

2012.06.26

第26号 ベトナムの自転車

 ベトナムの自転車は、川のように、雪崩れのように、僕を襲い掛かった。
 洪水のように、押し寄せるオートバイに目を取られていると、背後から色とりどりの商売品を満載した高齢の女性が、声をかけてくる。

「ニッポン…トウキョウ……ゲンキデスカ」

 僕は思わず、
「ホーチミンほど、元気じゃないよ」
と、呟いた。

 国家が高度に文明化し発展していくことで、そこに住む人間の具体的エネルギーは、反比例して劣化していく。加えて、情報が発展し、ありとあらゆる全身の五感を刺激すればするほど、知的エネルギーも疲弊する。
 
 ホーチミンは、まだまだ都市のエネルギーと敗北しない人間たちが生命という名のペダルを漕いでいる。