DIARY:夕焼け少年漂流記

 

2012.01.09

第2号 上田正樹さんの仮歌録音

 上田正樹さんのCDのレコーディングが佳境に入っている。3月に発売されるアルバムは、日本の音楽社会に何かを提案してくれる傑作になる。

 上田さんも何度か足を運んでいるが、被災地の状況は物質的にも、悲惨なものだが、それ以上にダメージを受けているのが被災者の心、精神的なるものが大きい。文明が未発達の原始社会ならまだしも、ある程度の電化製品に囲まれ、石油の恩恵を受け、人工的な環境に育まれた生活になれた人間が、”不便”を強いられてている、さらに仕事も、無ければ、明日の目処もつかない。

 上田さんの声の魅力の一つは、”裸の心”が曝け出されるところにある。変な気取りも無ければ、偽装的にきれいな声も作らない。喉の奥の肺に近い声帯から直接搾り出された声は、特に、感情や心が強調される詩には、威力を発揮する。威力とは説得力である。

 いくら詩を書いているといっても、そんな歌い手(シンガー)の仮歌を歌うのは自分の録音以上に、神経を使う。

 久し振りのスタジオは、居心地がいい。工作室や、屋根裏部屋や、高校生の部室は、物を作る気分を高めてくれる。何処か、秘密めいて、謎めいて、
時間の流れる感覚も無くなり自由だ。

 妥協しながら、満足するのは、苦痛を伴いながら、心地がいい。