DIARY:夕焼け少年漂流記

 

2010.07.05

第31号 小山薫堂さんのカレー屋さん

 小山薫堂さんのカレー屋さんは、東京タワーの2階。レストラン街の一角に、小粋な店を構えている。隣の中華料理屋さんはブッフェ・スタイルで、タワー見物の後に、腹を空かせた中学生が何百人も押しかけている。

 食通の小山さんらしく、味だけでなく、メニューも、スプーンの重さも、BGMも、工夫された何かを感じる。クリエーターは、”普通”を嫌う。普通にやっても、今や現在の小山さんの世界的評価において、”普通”以上のサムシングが要求される。

 「おくりびと」で、奥ゆかしく父への愛情と郷愁を描くシーンに、”昔拾った石”を材料にしたセンスの良さは、カレーの味にも活かされている。くどくなく深くルーが円熟し、淡白なようで微妙なチキンが煮込まれている。
 小山流の執念と、挑戦と、気概を感じる、カレーである。

 さて、単純で解かりやすい、スピードばかりが、食の世界を席巻している。
電子で魚を焼いて、郊外の工場で野菜を煮詰める、人が製作の過程で介在しないレストラン。
僕たちは、何かを、無意識のうちに葬ろうとしている。しかし、決して「食のおくりびと」に、なってはいけない。