DIARY:夕焼け少年漂流記

 

2006.06.23

第28号「筆の達人・辻さんが、蕎麦の巨匠になった」

 人間は、落ち着くところに落ち着いてこそ幸福なのであろう。
ビジネスで言えば適材適所、好きな仕事をすることが一番能力を発揮し、成長しやすいし、男と女の関係で言えば、よく似た性格の二人(カップル)の方がつまらないストレスや行き違いもなくて気楽である。
極端な話、この気ままな漂流記の文章ですら、書く万年筆を選ぶよりはペン先を選んだほうが、すらすら程よい文章が書ける。
やはり、自分の才能を発見できた人生は、何より幸せなのだ。

 リクルート時代にお世話になった辻さんが芝公園で蕎麦屋を開店したと聞いて、やはりそうか、と思った。当時文書課にいた辻さんは、その卓越した筆使いはもちろんのこと、小さな接待の招待状から新社屋の落成記念パーティの案内文まで、上品でそつのない、気配りの文章をすらすらの場で書ける才人であった。無論、定型物などは朝飯前である。

 「偶然お蕎麦屋さんの教室に顔を出したんですよ。それでね、蕎麦作りが結構楽しくて性に合ったものだから、本格的に長野に修業に行きましてね。2から3年修行しましてね・・・・・」
 
 筆とそば粉は一見全く異なった無縁のようなものにも思える。が・・・・・和紙を横目で眺めながら、墨汁に気を入れ、文字や文章のイメージを創り上げる作業と、そば粉を練りながらうまい蕎麦を練り上げる作業は共に、念を入れる集中力が一番必要であるようにも思う。