DIARY:夕焼け少年漂流記

 

2003.08.10

8月10日(日)埼玉の別名格闘技アリーナとも言われる「スーパー・アリーナ」でプライドの第一試合が始まり(PM3時)、そのころ橘君が東京湾花火の準備に追われている(写真は昨年の花火です)。


 例年この時期は台風の来襲も在って、花火大会のスタッフと風向きや、雲の量や、東京湾の波の高さが気になって、いつもひやひやするのだが、今年は丁度、昨日関東地方を台風が通過し、ギラギラするような夏の太陽が顔全体に照り付けている。


 埼玉アリーナでは、桜庭選手の復活を願うファンの暑い行列が並び、関係者専用の駐車場の入り口には、どこから嗅ぎ付けたのかマニアックなファンが(ありがたいお客様であるが)受付に横付けされる車の中を覗き込んでいる。

「東さん、どうですかねぇ?今日の盛り上がりは?」
 アントニオ・猪木さんの側近の伊藤さんが、藤田選手を引き連れて車から降りてきた。
「やっぱり、日本の選手が試合をリードしないと、寂しいですよね。桜庭君の出来が凄く良いらしいですよ」


 今までのイベントとしては、一番知的で、芸術的ではないかと思われるような華やかな仕掛けのオープニングで、「プライド27」は始まった。しかし、娯楽的なのはここまで、・・・・・いわゆる本物志向の格闘技ファンは、どちらが食われるか分からない“ガチンコ”に一瞬も目を逸らせない。まるで、闘牛場のように見るだけの者の気楽な余裕を、戦士たちの気迫、狂気がものの何秒かで傍観者の殺気へと変える。


「あと3分で始まります。」
 クルーザーのデッキの上で、昨年眺めていたくもりのない肌色の満月と、台風の直後の白く澄んだ今年の蒼い月を比較している。
・・・・・去年はあんなに胸の底がトキメイテイタのに・・・・ツライナァ

 橘君が招待客のVIP2回目のアナウンスをしている。
 パォオオオオン・・・・・・・・・一つ目の花火が上がると、何秒か後に湾岸で見ている何十万人の見物客の歓声が、芝浦あたりのビルに反射して、こだまのように東京湾の波を揺らした。


 年一回、一瞬の内に消える夏の空の思い出と、東京というメガロ・ポリスの高層ビルの無数のネオンの浮遊感が奇妙なバランスに感じられる。
・・・・・とそのとき、浴衣の袖にはさんだ携帯電話がシェイクした。


「東さん、シウバに桜庭がやられちゃいました・・・・????」
 埼玉アリーナの観衆の悲愴的な叫び声に混じりながら、リングサイドに陣取った歯科医の飯塚先生の声が、途切れ途切れに聞こえた。


「東さんも打ち上げ花火みたいな人生ね」
フゥット明るくなった波間から、誰かが、そう言ったように聞こえた。