DIARY:夕焼け少年漂流記

 

2003.06.06

6月6日(金)丁度1年前の、この日を思い出している。僕は、蒸し暑いあの夏の夜を、忘れないだろう(写真参照)。

 国中が、サーカーの祭典で沸きかえり、その熱に呼応するように、昨年の夏は記録的に蒸せていた。
 今晩も雨で濡れたような月がその淡い光線で、僕を魔法のように“記憶”の森に誘い込んだ。


 S氏にロシア戦のチケットを依頼されていた僕は、お客様用にVIP用に用意したわずかなチケットの中から、取って置きの1セットを用意した。
 春から続いた饒舌なアナウンサーの解説に飽き飽きしていた僕は、この頃になると毎晩モーツァルトを聴きながら、TV画面の国別の組み合わせ表と星取り予想を分析してベットに着くのが習慣になっていた。

 月の海に浮かんだように、レクイエムが静かに部屋に流れている。

「こんなに高価なもの頂いていいのかしら」

「もう二度と見られないんだよ。僕たちが生きてるうちに、日本でワールドカップが開催される確率は、もの凄く低いんだよ」

「弟が、きっと感謝するわ・・・・・こんなもの頂いたこと今まで一度もなかったもの」

 家族のことなど、口にしたことのないS氏がふいに弟の話をしたのに、僕は驚いていた。


 仕舞い込んだはずの残りのチケットが、その後のトルコ戦の不吉な勝敗を予想するかのように、底の破けた紙袋からはみ出していたのに、気がつかなかった。


 スポーツで負け癖が着くと、なかなか自信が持てなくなり、本当は実力があるにもかかわらず、自分のことを過小評価してしまい一層勝てなくなる。

 同じように、女性の人生も、あまりに深い傷を負ってしまうと、幸せを感じようとする心が希薄になり、本人の知らないうちに“幸福不感症”になってしまうことがあるようだ。


 日本代表は、見事に予選突破したことを単にラッキーと思っていたのではなかろうか?(写真参照)