DIARY:夕焼け少年漂流記

 

2002.06.18

6月18日(火)霧のように細かいが、じっとり柔らかく絡みつくような雨が仙台の宮城サッカー・スタジアムの周辺を濡らしている

まるでこの辺りだけを濡らす涙雨のようだ。今日、日本代表が負けた。誰も信じたくないだろうが事件はスローモーションのように試合開始直後10分に起った。パスミスからのコーナーキックに長身の選手の額に合わせられたボールが見事にゴールネットを揺らす。その瞬間だけ日本選手は何故か氷細工のように固まっていた。あのドーハの悲劇を再現したように。その後たんたんとだらだらとゲームが進み、トルコ・チームの速攻に1点を取られたままで、いつのまにか90分が過ぎた。最後の30秒まで点が入ると思っていた。おそらく5万人のサポーター全員がそう思っていたに違いない。しかし、根拠の無い安心感が勝負には一番よくない。こんな時、勝敗の神様は味方もしなければ奇跡も起こさせない。神を味方にする為には、恥も外聞もなくボールと敵を追い掛け回し、最後の1秒まで執念を燃やす根気が必要なのだ。神様は命を燃やす根性が好きなのだ。
行きに新幹線の仙台駅から貸切でお願いしたタクシーで、中途半端に火照った体を休ませながら福島駅まで高速を飛ばした。気障に聞こえるかもしれないが、早く仙台を去りたかったし、あの無数の青い応援のシャツの集団や、暗く重たい雰囲気の人の海を見たくなかった。ましてやため息満載の新幹線に乗ると運が落ちそうでいやだった。車の中で橘君と中尾さん(JAL)と妙に無理な冗談を言いながらも、どうしても励ましあってしまうのだ。
東北の田園地帯の闇の中にぽつぽつと農家の居間の明かりがともっている。今、終わったばかりのサッカーの結果をきっとニュースが流している。濃紺の奥羽山脈が巨大な枕のようにハイウェーの先を寝そべるように覆っている。まるで、負けた瞬間ピッチに倒れこんでしまった選手達の塊のように。