COLUMN:日刊ゲンダイ「数字のホンネ」

 

2008.09.09

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第75号 日本はますます「へそくり国家」になる  『たんす預金30兆円』

 今や懐かしい響きがする言葉に「へそくり」と「たんす預金」がある。

 日銀は、使われずに家庭に現金のまましまわれている1万円札などを想定しているようであるが、なんと2007年度の発行紙幣残高約75兆円のうち、使われないでしまわれている銀行券(お札)が4割に上ったと推定している。つまり眠っている現金、「たんす預金」が30兆円規模に上っているということである。歴史的に低金利が続いていることや、サブプライムローン問題による銀行をはじめとした金融市場の混乱で、膨大なお金が行き場を失っているといってもいいだろう。

 ちなみに、世の中に出回る1000円札と1万円札の枚数は、約15年前に1000円札25億枚、1万円札30億枚だったそうだが、その後、1万円札だけが右肩上がりに増加、今年6月末までは1000円札35億5000万枚に対し、1万円札は倍の70億枚になった。日銀では、1万円札を用いた決済だけが急増したとは考えづらく、増えた分のすべてが貯蓄目的で家の中のたんすの中にあるのではないか、つまり「たんす預金」の可能性が高いとみている。

10年前の金融システム危機で「たんす預金」は次第に増加し、さらにペイオフ(破綻金融機関の払戻保証額)が1000万円と決められてから、「たんす預金」は増加の傾向をたどっている。一方で、120兆円がモノやサービスの売買に使われず、銀行や信用金庫などの普通預金口座に置かれたままであるとの試算もあるようだ。

 いずれにしても、あてになるのが財布の中とたんすの中という、日本人の消費気質の裏側には、スピードの遅いあいまいな経済体制への反発や防衛本能が大きく機能していると思わざるを得ない。

 さらに加えて、サラリーマンの給与が銀行振り込みに変わったのは1970年代の後半。カードや生命保険、住宅ローンなどの銀行引き落としから残った現金は、今後ともだんだんたんす預金化するともいわれている。
社会的に資産としてあてにならない不動産、加えて社会保険庁の不誠実な対応など「現金国家日本」は、ますます「へそくり国家日本」となっていくのである。


2008年9月9日号