COLUMN:日刊ゲンダイ「数字のホンネ」

 

2008.05.12

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第59号 医療が危機的状況に陥っている! 『モンスター・ペイシェント禍』

 一昔前は病院や医者というと、憧れの職業であり、現実的に所得も一般サラリーマンなどよりははるかに安定し、高収入であった。しかし、最近は毎日のようにマスメディアが取り上げているように、病院の倒産、医師の賃金低下、加えて医療ミスなどのトラブル等、わが国の医療業界は戦後末曽有の危機にさらされている。

 さらに医療現場に目を移すと、こんなトラブルも多発している。入院患者とのトラブルで、「モンスター・ペイシェント」という利己的で理不尽な患者が看護師や医師を泣かせているのである。

 全日本病院協会の調べによると、その職員が患者やその家族から暴言や暴力を受けたケースが、昨年1年間で6882件に上っている。回答を寄せた1106病院の52%が「院内暴力があった」としている。

 暴言などの「精神的暴力」が3436件で最も多く、殴るなどの「身体的暴力」は2315件、「セクハラ」は935件に及ぶ。しかし、警察に届けたという病院は約5.8%、弁護士に相談したケースは約2.1%と、院内暴力に対しては事を荒立てることなく、内々で処理する病院がほとんどだ。
中には警察のOBを配置したりガードマンを採用したりして、このモンスター・ペイシェントの対策に乗り出している病院もあると聞く。

 「院内暴力」は年々、深刻の度を増す一方である。すでに患者は、病気を抱えて弱い立場にいるという時代ではないのかもしれない。大学病院の広報室に勤める私の友人の話によると、看護師や事務局のスタッフはもっとひどい目に遭っているともいう。

 医療業界を取り巻く危機的状況は、モンスター・ペイシェントの出場だけにとどまらない。勤務する病院の医師が足りない。したがって患者が他の病院に転院し、経営不振に陥るケースが後を絶たない。帝国データバンクの調べでは、2001年から2007年の間に、210件の医療機関が倒産した。10年後には病院の数は8000から9000程度になり、現在の2割減となってしまうという。これは明らかに国家の責任、つまり厚生労働省の無計画さにあると断言できる。
医療行政を根本から見直さなければならない時期に来ている。


2008年5月13日号