COLUMN:日刊ゲンダイ「数字のホンネ」

 

2007.08.28

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第30号 社会的インフラとしての可能性 『タクシー台数22万台/2005年度』

 最近、タクシーに乗ると、イヤな気分になることがある。転職して間もないのか、道路事情も分からず、ルート判断もきちんとできない運転手、ナビゲーションを頼りに前を見ないで急ブレーキを踏む運転手など、「他の車にすればよかった」と悔やんでしまう。筆者の周りからも同じような声をよく聞く。

 交通政策審議会(国土交通省の諮問機関)の小委員会は、タクシー運転手になれる条件の厳格化などを提言した。今は第2種運転免許を持っていれば、誰でも運転手になれるが、このザル法を改め、過去の交通事故歴などを条件に加え、問題のある運転手や事業者を排除するのが狙いだ。

 タクシー市場は2002年、小泉内閣による自由化で数量規制が撤廃された。よって2001年度に20万8000台だったタクシー台数(個人タクシーを除く)は、2005年度には22万4000台に増加。また、タクシーが起こした人身事故は2001年度の2万6000件が、2003年度には2万7300件に。タクシー台数の約10%が交通事故を起こしている事になる。

 一方で、大量輸送機関としてもタクシーの役割は大きい。年間の輸送人員は約24億人。国民1人当たり年間20回乗っている計算だ。この数字はJRの86億人と比べるといかに大きいかがわかる。

 タクシーの中では、ドライバーと乗客のコミュニケーションがある。これを社会的なコミュニケーションメディアとして有効に生かせば、乗客にとっても地域社会にとってもメリットは大きい。いろんな人生経験を積んだドライバーとの会話によって、客は新たな知識を吸収できる。

 ドライビングテクニック、タウン情報、人物情報、トレンド情報など、情報の穴場である。それだけではない。ドライバー同士の連携を強化することで、犯罪対策や災害対応、社会福祉などの面での可能性も広がる。

 長引く景気の低迷により、タクシー会社及び個人タクシーの経営状況は、極めて厳しいものとなっているのは分かるが、実はわれわれの生活の中に浸透したインフラだけに、もう一度見直さなければならない点は多い。


2007年8月28日号