COLUMN:日刊ゲンダイ「数字のホンネ」

 

2007.08.21

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第29号 フリーペーパー生き残りの条件 『2億9375万部』

 居酒屋に行っても喫茶店に行っても、ホテルのロビーに行っても、飛行機に乗っても新幹線に乗っても、日本中フリーマガジンだらけである。

 つい最近まで有料が当たり前と考えられていた雑誌が、どんどん無料化している。情報がインターネットをはじめ、無料で手に入る時代になってきたということだ。

 日本生活情報誌協会によると、2006年の調査で無料紙誌は950社、1200紙誌にも及ぶ。その総発行部数たるや、2億9375万部となり、部数はどんどん増加している。以前、私のいた会社も広告収入で雑誌を出版しているため、価格は圧倒的に低かったが、ここ最近ではまさに無料ビジネスモデルが他の出版社でも確立した感がある。

 一方で、2002年の調査をみると、無料紙誌を発行している会社は1061社、2億2087万部となっており、この5年間でフリーマガジンを発行する社数は減少している。おそらく紙・新聞系のフリーペーパーから、雑誌の体裁のフリーマガジンに移行する過程で、資本力の少ない会社が淘汰されたのではないかと思う。

 実は、広告主にとっても効果の有無は評価しづらい。そのため、創刊から数カ月の間は創刊効果で広告収入は取れるものの、その後廃刊に追いやられるメディアも少なくないとみられる。

 原宿や青山で最近見かけるサンプルショップも同様であるが、最終的には顧客データの蓄積と自宅や会社配送などの流通システムが整ったメディアの生存率は高くなるであろう。

 発行意図を明確にし、読者層を絞り込み、なおかつ的確な流通経路を押さえ、無駄な印刷をしない、というのが生存する4つの条件。いずれにしても地球環境保護のため、紙の無駄な消費をなるべく抑えなければならない時代にあって、良心的なフリーペーパー・フリーマガジンのみが生存を許されるのである。

 また、タダだからといってフリーペーパーをヤミクモに手にする日本人のケチくさい好奇心が広告効果に結びつくかどうかも、大げさではなく国家レベルの問題である。


2007年8月21日号