DIARY:夕焼け少年漂流記

 

2011.11.23

第39号 石巻の空気

 石巻を歩いている。

上田正樹さんの被災地応援の歌「今在る気持ち」の2番の歌詞を創る為に、石巻の瓦礫の前を歩いている。人気が無い漁港では、わずかばかりの復興のクレーンが、音を立てている。祝日だからなおさら、寂しい光景。

 波に犯され、流された数千台の車が、連連とピラミッドのように積まれ、泥と汚水でもみくちゃにされた黒い瓦礫が、山脈のように海沿いの道を覆っている。

 津波に呑まれ火事になってしまった小学校の脇に、船に積んであった消火器が置かれている。校庭の右隣にある墓地の石が転倒し、土に食い込み、ひな壇に小さな野菊が黄色い花を咲かせている。

 青空の中で風が無い石巻の漁港は、あと数日すると冬を迎える。粉雪がツンツンと舞い、比重の重い、冷たい海が容赦なく踊り、凍えそうな町の人々気持ちを閉ざさなければいいが・・。

 東京の机の上で、一服しながら書いた詩を、書き換えようと上田さんに電話してみた。
「あまり目の前の現実を意識しすぎると、言葉が探せなくなりますね」
「心の中の情景は、あくまで幻想という嘘ですからね」

 この町に必要なのは、暖かいご飯と、温かいストーブと、何でも話せる友人と、”魚を取りに行く船”。
 復興。再起。??????。

 本音を言えば、言葉や、歌や、絵よりもっと必要なもの。
大切な今の瞬間を生きる為のエネルギーが、足りない。

 以前の石巻に、帰る道は、探せない。明日の石巻を作る道が、見えない。
 全てが今の政府の人材では、長引きそうである。