DIARY:夕焼け少年漂流記

 

2011.01.24

第4号 高層ビルの職人芸

 高層ビルの職人芸。オフィスの窓から富士山を、口をあけて見ていたら
突然屋上の方から、揺れるようにゴンドラが下りてきて、僕の目の前に止まった。
 すると、体を半分乗り出して、左手でロープを掴みながら、窓の掃除を始めた。命綱が長くドローリとビルの下に向って垂れ下がっている。

「今日は、ロープが4本だから、揺れませんよ」
「2本だと、揺れるんですか」
「揺れても、落ちませんから・・・・」

聞いてみると、リーマンショック以降、日給がダウンし一日8000円程度との事。職業だから、やがて練れてくるとは言うものの、強い風の日もあれば、冷たい雨の日もあるし、高いビルもあれば、古いビルもある。

 日本は、いつの日からか、職人さんという言葉を使わなくなった。「職人さん」という言葉の響きの中には、「技術者」という言葉では、表現できない”生身の手の動きと経験”を感じる。

 日本は、いつの日からか、”楽をして、お金を稼ぐ人たち”を評価し、汗水たらして仕事をする人たちを、貶すようになった。

若者は、ずるがしこく算盤の早い金融系の人たちに憧れ、人生を掛けて手に職をつける職人さんを、”下目目線”で見下ろす様になった。

「楽をすると言うことは、何も学ばないこと。人生は、とことん苦しんで見えてくる世界や景色がある」

 ふと見ると、ピアピカに透き通った窓の向こうに、富士山が見えた。
職人は、日本の誇りであり、象徴でもある。