DIARY:夕焼け少年漂流記

 

2010.07.20

第33号 美楽の筆者白石茂樹さんの「帰ってきた蛍」

 美楽の筆者白石さんの「帰ってきた蛍」の舞台は、昭和20年5月、鹿児島県の知覧にある料理屋である。”明日の命さえも、国家に預けさせられた”若者が、ほんの何日か数時間か残された”ぎりぎりの人生(生命)”を、懸命に演じる。

 日本はこの数十年、極端な時代である。数百万人の命を戦争で失い、国民は貧し、しかしその後十年で目も眩むような豊かさを体験し始める。生まれた年が僅かに前後するだけで、国に対する考え方も、親に対する考え方も、人生も、恋愛も、金銭も全ての、価値観が異なる人種が混在する国。
しかし、戦前、戦後の間には、明確に引かれた「国境のような思想とテーマの違い」がある。それは、愛国主義と、アメリカニズム(欧米)である。
 
 僕は、主にテレビから流出した大量のアメリカニズムの洗礼を浴びながらも、何処か”この強力でシンプルな数と量の思想”に疑問を持ち始める世代。動けないし、走れないし、かと言って、座れない。

 「残った人生を、おばさんに、差し上げます」
明日の朝、沖縄での特攻が決まった若者が言う。
「明日の夜、僕は、蛍になって帰ってくるよ」

 知覧を飛び立った蛍(英霊たち)は、夏になると毎年美しい故郷に”命の灯り”を灯すのであるが、決して今の日本を、信じることはできない。

*脚本・演出の柿崎祐治さんには、3年前のパウエル元国務長官の来日講演の際に、大変お世話になりました。パウエル氏???これも、何かの縁かな?