DIARY:夕焼け少年漂流記

 

2008.07.14

第28号 月刊「美楽」8月号

『足利の花火』

 電信柱に貼り付けられた映画のポスターの下に、雨で滲み、墨で書かれていた花火大会のビラが貼ってあった。友人たちは、思い思いの浴衣を羽織り、夕食にするおにぎりを紙袋に入れ、渦巻状の蚊取り線香をいくつかに割り、台風で流れる雨雲の様子をラジオで聴きながら、いつも小魚を追っている川原に出かけた。
 花火がはじるまでの間、妙にどきどきしていたのは、土手の僅かなスペースを使った観覧席の斜め後ろに、好きだった女の子が両親と共に座っている。


 携帯電話でたくさんの小学生と中学生が、いじめに遭い、苦しみ、そのせいで命を落としている。
 天に向かって伸びていく花火の味わい方も昨今は、昔とは随分変わってしまい、その音や美しさや風に流されるせつなさを味わう間もなく、一斉に携帯電話のカメラのスイッチを押す。

 私たち大人は、今の子どもたちに、“夏の花火”の記憶をどう美しく残してあげられるのであろうか。それとも、“夏の花火”は単なる一夜のイベントとして消化させてしまうのであろうか。