COLUMN:日刊ゲンダイ「数字のホンネ」

 

2007.10.30

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第36号 マネーレス時代の到来 『SuicaとPASMO1ヶ月の決済件数1920万件』

 古き良き日本は、父親の権限がきちっとしていた。給料日に、茶色い封筒と手土産を持った親父が家に帰ってきて、その封を切るとそこからお札とコインが出てきて「今月分の給料だよ」とお母さんに渡すことで、父親の権限というのは子どもにも誇示できたものである。ところが、今やキャッシュレスからマネーレスの時代へと変わりつつある。

 カードによって買い物をし、生活をしていくことで、財布の中に10枚のカードはあっても、10万円以上持っている人は少ない。さらに、そのカードがIC化され、統合されることで、やがては本当に現金のなくなる時代(マネーレスの日々)が近づいてくる。

 2007年3月に首都圏の私鉄などの交通機関は、ICカード乗車券「PASMO(パスモ)」のサービスを開始した。JR東日本の「Suica(スイカ)」との相互利用を始めたのだ。ICチップを埋め込んでセンサーのかざすだけで改札を通る、このカードを持っていれば路線の壁を越え、首都圏の鉄道やバスなど、ほとんどの交通機関で利用できるのだ。更にはJR西日本の「ICOCA(イコカ)」やJR東海の「TOICA(トイカ)」を加えたJR3社での相互利用を始まる。つまり「Suica」1枚でなんとJR各線1200駅で乗降が可能となる。

 このことのによって携帯電話に「Suica」機能を搭載した「モバイルスイカ」や駅の売店やコンビニエンスなどで使える「Edy(エディ)」や「ハナコ」などの多くの電子マネーが、やがては融合していくのであろう。

 ちなみに「Suica」は9月までに加盟店舗が2万2000店を超え、1ヵ月当たりの「Suica」と「PASMO」の決算件数は1920万件に達している。

 われわれが概念として持つ交通乗車券が、完全な電子マネーと変貌し、そこに生活消費のすべてが統合されることで、確かに便利な時代が到来するのであろうが、個人認証の問題やセキュリティーの確保など、社会的なインフラとして定着させるために同時進行して行わなければいけない課題も多い。パソコンや携帯に続いて、無防備に普及を急ぐと、その裏で失うものも多いことを注意しなければならない。


2007年10月30日号


2007.10.23

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第35号 洗浄トイレはどこまで進化するか 『洗浄便座普及率65.3%』

洗浄便座(トイレ)の普及がめざましい。一般家庭の洗浄便座の普及率は平成19年3月度の調査で65.3%。つまり一般世帯の2000万世帯程度は洗浄便座を取り付けていることになる。加えて、デパートやホテル、旅館、ゴルフ場に至るまで、商業用施設への普及率も一般世帯以上に早まっているという。

 洗浄水量の業界標準は10年前まで1回当たり13リットル。これは4人家族のモデルケースで、年間約2万円の水道代がかかっていた。それが最近の最新式の洗浄トイレでは、1回あたりわずか6リットルで用をたせる。洗浄水槽の進化はもちろん必要な水の量だけでなく、今後もより一層ハイテク化するのは間違いない。たとえば音楽や照明と連動し自動的にフタが開く。あるいは便座に腰掛けた瞬間に体脂肪率や体温、脈拍などを測る医療用への革新。さらには便器の材質も陶器から汚れがつきにくいアクリル樹脂への変化など。

 一方で、諸外国では相変わらず不衛生なトイレや水の出ないトイレなど、どうもトイレに関心がないようだ。これはトイレのコマーシャルが、特に欧米では難しいせいもあるのだが、それ以上に清潔好きな日本人の民族性と洗浄トイレが、ピッタリはまって市場を形成した、ということであろう。

 私などもそうであるが、洗浄トイレはかなり習慣的な要素が強く、このトイレに慣れてしまうと一般のトイレでは用がたせなくなるという人も多いし、さらに高齢者や身障者に至っては生活必需品となっている。一方で、ハイテク化が進むにつれて、洗浄ボタンやその機能を指示するボタンも複雑化しており、あやまって緊急ボタンを押したり、女性用のビデのボタンを押したり、洗浄のための水温をあやまって設定したりするケースが見受けられる。よりシンプルなボタン操作も今後の課題となってくるであろう。

 課題はあるが、この洗浄トイレ、日本が世界に誇る文化と言っていいのではないか。


2007年10月23日号


2007.10.16

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第34号 買うから借りる時代に 『レンタカー35万5000台』

今年の夏休みに北海道でゴルフツアーを考えて、札幌からレンタカーを借りようと思ったが、まったく予約ができなかった。調べてみると、実は日本全国でレンタカーは大賑わいなのである。

 全国レンタカー協会の調べによると、2006年3月末の国内レンタカーの台数は35万5000台。前年度末より7%増加。なんと10年前の1.4倍になっている。

 かたや06年の新車の販売台数(軽自動車含む)は、05年に比べ4.1%減の561万8500台と20年ぶりの低水準。今、日本人は目覚めたかのように、「車は買うより借りた方が得かつ合理的」という考えに変わってきたのであろう。個人だけでなく、ビジネスシーンも同様だ。

 これはガソリンの高騰も関係している。1バレル=100ドルを予測する経済学者もおり、そうなるとレギュラーガソリンの価格は1リットル=200円を越す。加えて駐車場代やら保険、車検費用などの維持費を考えれば、マイカーを手放し、必要な時だけ借りるレンタカー派が増えてもおかしくない。毎月の会費と利用時だけ料金を支払えば済むカーシェアの動きも加速していくだろう。

 さて、買うより借りる時代の到来で、もうひとつ重要なことは大量生産、大量消費の不合理な経済体制にくさびを打つことが出来ることである。壊れかけたこの国のコミュニテイーを再生産する意味でも、レンタカーをはじめ、めったに使わないものを共有で購入するというのは納得のいくシステムであろう。

 その一方で、お隣中国では昭和60年代の日本と同様に、競い合うように車とマンションが売れている。モータリゼーションが本格化してきているのだ。レンタカー志向の高まりと国内の新車販売低迷という事態が続けば、日本の自動車メーカーの中国依存度はますます高まっていく。


2007年10月16日号


2007.10.02

日刊ゲンダイ「数字のホンネ」第33号 遅寝早起きの弊害 『日本人の睡眠時間6時間以内41%』

早起きをして朝刊を片手に散歩していると、夜更かし組が帰宅する。昔であればせいぜい徹夜マージャンくらいで、ほとんどの人は健全な睡眠についていたはずのこの国は、今や世界で最も眠らない国となった。

 ちょっと古いデータだが、ACニールセン(2004年インターネット調査)によると、最も睡眠時間が短いのは日本人で、総人口の41%が6時間以内の睡眠時間となっている。残業で帰宅が遅くなるビジネスマンや、TVの深夜番組やネットにはまる若者たちの睡眠は削られる一方だ。

 街も眠らない。コンビニ、ガソリンスタンド、ファミレス、ネットカフェ、サウナなどが、高騰した地代を補うために、こぞって24時間営業している。

 NHKの国民生活調査でも、1960年に8.13時間だった日本人の平均睡眠時間が2005年には7.22時間。この傾向は年々続き、10年には6時間台に突入するといわれている。

 さらにカラダに悪いのは、遅寝早起き傾向だ。12時以降に就寝する人の順位でみると日本は世界で6番目。ちなみに1位はポルトガル、2位台湾、3位は韓国。7時までに起きる国をあげると、1位インドネシア、2位ベトナム、3位がフィリピン。日本は世界8位であるが、両方のベストテンにランクインしているのは日本だけである。つまり12時過ぎに寝て7時までに起きる、というのが今の日本人の平均睡眠パターンといえそうだ。

 この睡眠時間の減少が深夜の犯罪の増加に始まり、子供たちの健全な成長を阻害しているとすると、24時間という営業体制は産業界全体でチェックして見直すべき国家的課題といえる。「深夜国家」といわれる不健康なイメージも至急改善すべきではなかろうか。
国家も人も、「寝る子は育つ」のである。


2007年10月2日号